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少年の成長に心が「温かく」なる映画

温育カルチャー

スーパー8(2011年)

監督:   J・J・エイブラムス

出演:ジョエル・コートニー、エル・ファニング ほか

SFメインではなく少年の成長物語

少年×エイリアンという組み合わせにSFを想像する方が多いかもしれません。ですが本作はどちらかというとSFメインというより、一人の少年の成長物語を描いています。少年と仲間たちの交流、母親への執着、父親との確執……少年はひと夏に様々な人間関係と冒険を経て、少しずつ成長していきます。そして少年だけではなく、少年を取り巻く人々も少しずつ変わっていく。それは以前こちらでも紹介した『菊次郎の夏』とも結びつく部分かもしれません。

絶妙な主人公の年齢

主人公ジョーの年齢設定は10歳くらい。

季節が移り変わって秋の香りを感じた時、近くの小学校から運動会の音楽が聞こえてきた時……ふと思い出すのはいつも自分が10歳前後だった頃の記憶です。この時期に経験した楽しかったこと、嬉しかったこと、辛かったことを振り返ると眩しくてちょっと切なくてほろ苦い、そんな気分にさせられます。そのくらいこの頃の経験というのはその後の人生の基礎を築き、自分の人格形成に影響を与えるほど、一つひとつが大きく重要な出来事だったのだと今になってわかります。

その大切な時期にジョーは、不慮の事故で最愛の母を亡くしてしまいます。10歳頃といえば、それまでは無限に甘え頼りにしていた母親から、精神的にも肉体的にも少しずつ自立していく時期。本作の主人公も映画を撮ったり気の合う友達と遊んだり、自分のやりたいことや意思が明確になっていき、少しずつ自立心が芽生えていた矢先、いざ離れようとしていた母親を突然亡くしてしまう。それがどれだけ彼の心や人格に影響を与えたのか、冒頭の葬儀シーンで表現されています。雪が積もった自宅の庭、ひとりブランコに腰かけて母親の形見のペンダントを見つめるジョー。涙を流すわけでも怒りに震えるわけでもなく、ただ一点を見つめる彼の姿は、まるで感情を失った人形のようです。

もっと幼かったら、悲しみに打ちひしがれて涙を流すでしょう。もっと大人だったら、怒りに震えて怒鳴り散らしたり、一方では運命と捉えて死を受け入れたりすることでしょう。人は感情を解放することや諦めることで、少しずつ自分の悲しみや苦しみに折り合いをつけていくことができます。しかし10歳という微妙な年齢のジョーには、そのどちらもできません。月日が経ち気の合う友人と遊んでいても、大好きな映画を作っても一度空っぽになってしまった心を埋めることができず、母親の映った8ミリムービーを観たり、ペンダントを肌身離さず持ち歩いたりして過去を引きずり続けています。本作では“10歳くらい”という年齢がとても効果的な設定として使われているのです。

『未知との遭遇』『E.T.』、本作に共通するテーマは?

そんな繊細で複雑な心境が描かれている少年と、ある種コミカル的な要素も感じてしまうエイリアン。一見アンバランスな組み合わせのように感じます。しかしこのエイリアンが、少年の心を救い、成長させる役割を担います。

ここまでで、ある作品を思い浮かべる方がいらっしゃるかもしれません。スティーヴン・スピルバーグ監督作品『未知との遭遇』、『E.T.』。スピルバーグは本作でもプロデューサーとしてストーリー作りから携わっています。日本でも老若男女誰もが知っている2作から30年後の2011年、本作が公開されました。事実『未知との遭遇』と本作のポスターやDVDジャケットは驚くほどよく似ています。夜空のもとまっすぐ続く一本の道の先に青白く光り輝く何か。映画のキャッチコピーも一緒です。「WE ARE NOT ALONE」。

『E.T.』はエイリアンE.T.と一人の少年の交流を描く物語。その少年の年齢も10歳で、両親の離婚により父親を失っています。このエイリアン×少年という組み合わせ、年齢、片親という設定が全く同じです。

これらのことから本作は2作品のオマージュであることが伺えます。どちらも、心を通わせるためには巧みな言葉は必ずしも必要ではなく、相手を信じる心を持つことが何よりも大切なことと映画を通して私たちに伝えています。

本作のエイリアンは少年と同じく深く傷つき心を失い、愛する存在を求めています。少年が父親と揉めて心を痛める度、エイリアンもそれに呼応するかのように暴れます。『E.T.』でも同じくE.T.と主人公の少年は深い繋がりがあり、E.T.がビールを飲んで酔っ払うと少年も酔っ払ってしまうという描写がありました。本作も『E.T.』もラストではある決断をすることで過去を振り切り、少年から青年へと大きな成長を遂げることになります。誰もが経験する大人への成長の第一歩の瞬間。自身の経験と重ねて涙する方も多いのではないでしょうか。

まだ何者でもないけど、何者にでもなれるあの頃。純真無垢に無我夢中に駆け抜けた時代を思い出し、ノスタルジックな気分を味わうことができる作品といえるでしょう。

ただし『E.T.』と違って、エイリアンは全然可愛くないのでその点だけあしからず!笑


あらすじ

舞台は1979年の夏。オハイオ州の小さな町で、事故で最愛の母を亡くしたばかりの少年ジョーは保安官の父親と暮らす。母親の死後、折り合いが悪くなり衝突することが増えた2人。ジョーはそのうさを晴らすかのように、友人たちと自主製作のゾンビ映画作りに没頭していた。夏休みに入り、ジョーと友人たち6人は、スーパー8mmカメラを持って線路沿いで撮影していると、アメリカ空軍の物資を運んでいた貨物列車と線路に侵入してきた車が激突。列車が大破炎上する大事故になってしまう。奇跡的に無事だったジョーと友人たちは電車に衝突した車に駆け寄ると、運転手はジョー達の通う学校の生物教師だった。彼はケガを負いながら「今見たことを誰にも言うな。そうしなければ君達と、君達の親も殺されるぞ」と銃を向けて、脅しながら意味深な言葉を残した。その後軍による事故調査が行われる中、街では奇妙な事件が続発していた。車屋の車のエンジン部分だけが消えていたり、電話が通じなかったり、街中の犬が失踪していたり……。ついにはジョーの友達であるアリスも何者かにさらわれてしまった。何か手掛かりがあるかもしれないと考えたジョー達は、列車事故の様子を映したフィルムを映写してみることに。するとそこには“怪物”が映っていた……。

前回の記事はこちら→ 人は誰しも、決して孤独ではない。様々な絆に心が「温かく」なる映画

(了)

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著者名:yukigary
父母の影響で小さい頃から洋画を観まくる。爆発する作品は大体好き。俳優のゲイリー・オールドマンが3度の飯より好き。
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