二人の絆に心が温まる感動作 温育ムービー『人生に乾杯!』

温育カルチャー

タイトルと写真のアンバランスさに注目!

「ハンガリー映画」と聞くと、いまひとつピンとこない方も多いのではないでしょうか。かくいうわたしも、本作に出会うまでハンガリー映画を観たことはありませんでした。某レンタルビデオ店で当時、新作コーナーに並べられていた本作のDVDパッケージデザインとタイトルに惹かれ、なんとなく借りたのがきっかけ。「好きな映画を何作か挙げて」と言われると、必ず挙げる一作になりました。ということで、まずタイトルとパッケージに注目してほしいのです。遠目から見ると、ピンクの可愛い書体で「人生に乾杯!」と書かれ、淡いやさしい色を背景に色とりどりの小さなお花が散りばめられ、ほんわかとした雰囲気。そこにまた可愛らしい感じのおじいちゃんとおばあちゃんが並んで立っている。のどかな映画かしら~と思いながら、近づいてよく見ると、腰の曲がったおじいちゃんの手にはトカレフ。可愛らしい服装をしたおばあちゃんの顔も妙にシリアス。「なんなんだこのタイトル・背景とアンバランスな写真は……」と興味をそそられ、借りたのでした。

くすりと笑えるシーンが満載。社会情勢の問題に踏み込んだ描写も

ストーリー展開は基本的に静かで淡々と進んでいきます。主人公が老人ですからね。迫力のアクションシーンも派手な銃撃戦もありません。全体的にのんびりゆったりとしています。冒頭30分くらいは、あまりののどかさにちょっとむにゃむにゃ……と眠気が襲ってくるかもしれません。しかし夫婦が手を取り合って、エミルの古い相棒チャイカに乗り込み、今時のタクシーには登れない砂利の斜面を物ともせず登り切って、まんまと警察の追跡を逃れてしまうあたりからどんどん物語に惹き付けられていきます。とはいっても基本はのどか。主要な登場人物2人はおじいちゃんおばあちゃんなので、動きもゆっくりだし。しかしところどころにシュールな笑いが散りばめられていて、飽きません。ギャング映画を気取って意気込んで銀行に押し入り凄んでみたら、昼休みで誰もいないとか。2人を追う元恋人同士の警察官カップルのちぐはぐなやり取りとか。本作公開時は老夫婦が銀行強盗をする物語のように宣伝されていたようですが、それもちょっと違うんですね。確かに強盗はするのですが、なんというかちょっと盗んで、少し2人の時間を過ごしたらまたちょっとやる(盗む)みたいな、まるでつまみ食いをするかのように強盗していく姿がなんともシュールでほほえましいんです。そして最初は怖がっていた街の人たちの声はどんどんこの年老いた強盗達に好意的になっていき、デモを起こしてまで応援するようになります。特に同世代の年金受給者たちにとってはヒーローとなり、模倣犯まで現れる。これはもちろん、年金だけで生活できないハンガリーという国の社会情勢の問題を提起しているのですが、それを前面に押し付けるわけではなく、あくまでも老夫婦2人の行動を中心に描いていきます。

ふたりならきっと明日を変えられる

行き当たりばったりで強盗しているかのようでいて、老人ならでは経験や知識を活かして工夫し、うまく警官の裏をかいて逃げ続ける2人の逃避行も徐々に追い詰められていきます。そんな時に妻・ヘディがつぶやく一言「人生の心残りがひとつだけある。海を見てみたかったわ」。これはハンガリーが多国に囲まれ、海に接していない国だからということもありますが、第二次世界大戦後、ソ連の影響下から社会主義国へ。そしてハンガリー動乱を経て資本主義へと体制転換し、目まぐるしい政治の変遷に翻弄され自由な生活を望んでいたヘディの心からの願いだったのだと思います。ヘディは70年もの間どんな想いで海に憧れ続けていたのか。海に囲まれた国に住んでいる私たちにとっては計り知れないほどの想いがあるのだと思います。そして何よりもこの「海」は本作のキーワードのひとつです。果たしてヘディは、2人は、海を見ることはできるのでしょうか。

私が本作を心温まる映画として紹介したいのは、物語の過程ももちろんですが、何よりもラストシーンなのです。物語の終盤、想像もしていなかったあまりの悲劇的な展開に唖然とし、なんとも辛い気持ちになりました。観なきゃよかったとも思いました。

でも、どうか、最後の最後まで見てください。きっと、いや、必ず「にやり」として小さく拍手したくなることでしょう。

2人は念願の海に行けたのでしょうか? それは正直わかりません。でも、歳を重ねても、例え社会情勢が不安定になっても、“ふたりならきっと明日を変えられる”。恋人や家族、友人―。あなたの愛する人とどうか一緒にご覧ください。

映画『人生に乾杯!』(2007年)

監督:ガーボル・ロホニ

出演:エミル・ケレシュ、テリ・フェルディ ほか

あらすじ

1950年代後半の社会主義時代のハンガリーで、労働者階級出身の共産党員・エミル(エミル・ケレシュ)と伯爵令嬢のヘディ(テリ・フェルディ)は運命的な出会いで恋に落ち、結婚した。やがて時は経ち、81歳となったエミルと70歳のヘディ。恋に落ちていた頃のことなどすっかり忘れた2人は、毎月の僅かな年金での暮らしを余儀なくされ、電気代も満足に払えないほど貧しく、借金取りに追われる毎日。遂には、借金のカタに夫婦の出会いのきっかけとなったヘディの大事なダイヤのイヤリングを取られてしまう。その夜、ヘディの寝顔を見つめるエミル。自分の不甲斐なさと、老人に冷たい社会に怒りを覚えたエミルは、持病のギックリ腰を押して20年ぶりに愛車のチャイカを走らせ、郵便局で紳士的な強盗を働き成功する。それを皮切りに次々と紳士的強盗を重ねていくも、すぐに警察は身元を突き止められ、妻のヘディに捜査協力を求める。最初こそ夫の罪がこれ以上重くならないようにと、警察に手を貸すヘディだったが、奮闘する夫の姿に薄れかけていたかつての愛しい気持ちを思い出し、エミルの手を取り共に逃げる決心をする。2人の逃避行は、やがて民衆を巻き込んで思いもかけない展開に―。

(了)

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著者名:yukigary
父母の影響で小さい頃から洋画を観まくる。爆発する作品は大体好き。俳優のゲイリー・オールドマンが3度の飯より好き。
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